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東京地方裁判所 平成7年(ワ)25105号 判決 1996年3月22日

原告

セントラル抵当証券株式会社

右代表者代表取締役

齊藤俊夫

右訴訟代理人弁護士

松嶋泰

寺澤正孝

相場中行

竹澤大格

鈴木雅之

被告

株式会社オリファンド

右代表者代表取締役

板橋仁郎

右訴訟代理人弁護士

福嶋弘榮

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求の趣旨

東京地方裁判所平成七年(リ)第二七三二号、同年(リ)第三二〇四号、同年(リ)第三八七七号、同年(リ)第四八八七号、同年(リ)第五一七七号、同年(リ)第六二九八号、同年(リ)第三二五五号配当手続事件について同裁判所が作成した配当表のうち、被告に交付すべき金員のうち金五五万七九六七円の部分を取消し、右金五五万七九六七円を原告に対する配当額に変更する。

二  事案の概要

本件は、訴外株式会社ライベックス(以下、「ライベックス」という。)に対して同順位の抵当権を有している原告と被告が、抵当権に基づきその目的物の賃借人を第三債務者として、債務者ライベックスの第三債務者に対する賃料債権につき、物上代位としての債権差押命令をそれぞれ得たところ、第三債務者が差押競合以降の賃料を供託したため、その供託金に対する配当の額を争う事件である。

三  争いのない事実等

1  原告と被告は、それぞれ債務者ライベックスに対する債権者であり、ライベックスに対する債権を被担保債権として、それぞれ別紙物件目録記載の不動産(以下、「本件物件」という。)に第一順位(同順位)の抵当権(被告は根抵当権)を有している。

2  原告は、前項記載の抵当権に基づき、ライベックスを債務者、本件物件の賃借人である株式会社ダイエーレジャーランド、株式会社ダイエーコンビニエンスシステムズ(以下「第三債務者ら」という。)外一名を第三債務者として、債務者の第三債務者に対する賃料債権につき、申立時である平成七年四月一〇日までの確定遅延損害金を含む請求債権に基づき、前項記載の抵当権に基づく物上代位としての債権差押命令の申立を行い、平成七年四月一二日、東京地方裁判所から右債権全額につき債権差押命令を得た。

3  右債権差押命令は、平成七年四月一四日、第三債務者らに送達されたが、第三債務者らの債務者に対する本件賃料債権については、すでに被告が第1項記載の根抵当権に基づき差押命令を得ており、第三債務者らは差押競合以降の賃料合計一五〇一万七二〇三円を供託した。

4  右供託金及び供託金に対する利息合計金一五〇五万〇一九三円について、請求の趣旨記載の配当事件が生じた。

原告は前記債権差押命令における請求債権額全額について債権届出を行い、一旦これに基づき、原告への配当金を金九七〇万九〇八九円、被告への配当金を金五三三万九三六四円(その他に手続費用として金一七四〇円)とする配当表が作成された。

5  これに対し、被告は原告届出にかかる遅延損害金及び利息のうち、二年分の損害金に相当する金二億八〇〇〇万円を超える部分につき異議を申立て、配当表につき更正決定がなされた。その結果、原告に対する配当金は金九一五万一一二二円、被告に対する配当金は金五八九万七三三一円となった。

原告は配当期日において更正のなされた金五五万七九六七円につき異議を申し立てた。

四  争点

抵当権に基づく物上代位による債権差押命令においても、民法三七四条の適用ないし類推適用により、債権差押命令申立時から遡って二年分の定期金のみが優先権を有するといえるか。

(原告の主張)

抵当権の行使としての賃料債権に対する物上代位の効力については、民法三七四条の適用はないと解すべきである。

1  民法三七四条は、後順位抵当権者に不測の損害を与えないことを法意とするが、物上代位に基づく債権差押については、このような配慮を行うべき理由はない。

物上代位は、抵当権等担保権に基づくものであるが、抵当権自体の実行と物上代位による差押には、その形式及び請求権において差異があり、同一視できない。すなわち、物上代位による差押においては、債権差押の方法によるばかりでなく、請求債権における定期金は申立時までの確定利息及び確定遅延損害金に限定されているのに対し、通常の抵当権実行においては定期金には何らこのような限定はなく、一定の時点からの附帯請求の形をとっている。

これは、抵当権の実行による不動産執行においては、このような附帯請求の形で債権届出が許されるのは、後順位者の予測を害することはないからである。ところが、債権差押手続においては、差押申立時点に存在する債権として元本・利息・損害金のいずれであっても区別を設ける理由がなく、当該時点で存在する債権全部について効力を認めるからこそ確定利息または確定遅延損害金の形式での債権届出が必要となるのである。

2  物上代位による債権差押に、民法三七四条を適用すると、その配当の基礎となる定期金は配当の行われた時点から遡って二年分に限られるべきである。ところが、被告主張によれば、申立時を基準として二年分に限って配当の基礎となることを認めることになり、その根拠が不明確である。

3  物上代位による差押の中でも、保険金請求権・損害賠償請求権等の担保目的物の対価たる債権と賃料のような果実に対する効力を同一視しうるか、についても疑問が残る。

抵当権の実行に基づく不動産競売ないし抵当権の目的物の対価に対する差押は、一回限りの手続で終了する。しかし、賃料債権に対する物上代位は債権者が自由に反復して複数回の申立を行うことは妨げられず、抵当権自体の実行に基づく不動産執行との手続の併存ないし競合を認められている。これは、賃料等の果実に対する物上代位による債権差押と抵当権の不動産自体に対する効力と別個の効力に基づいて差押が認められるものと解するほかない。この点からしても、両者は性質が異なる手続というべきである。

4  通常の債権差押手続においては、申立時に確定された債権は、元本・利息・遅延損害金の区別なく全額配当計算の基礎となり、抵当権の実行に基づく不動産執行手続のような後順位者に対する配慮はなく、後順位抵当権者が不動産執行手続においては配当を受けるべき地位にあるとしても、物上代位による賃料債権に対する債権差押においては一切配当の対象とならないのが執行裁判所のほぼ確定した取扱である。このことは、物上代位による債権差押が、特に法定果実に対する関係では通常の抵当権の実行による不動産執行の効力と異なる効力を有することの証拠である。

5  実質的に見ても、物上代位による債権差押に民法三七四条を適用すると当事者間の公平を著しく害する結果となる。

本件においても、被告は原告と同順位でありながら原告の申立以前から物上代位を行って、民法三七四条の期間を超える部分の定期金についてもすでに配当を受けている。仮に、現時点において被告の主張に従った配当を認めると、形式的には民法三七四条を適用しておきながら、その実質的において債権者間の公平を害するという同条の法意に全く反する結果を招く。

仮に、同一債権同順位の抵当権者が同一日に同時に物上代位の申立をした場合、一方が確定遅延損害金全額を含む債権全額を請求債権とし、他方が元本・確定遅延損害金のそれぞれ半額を内金請求とした場合に、民法三七四条の適用を認めれば、各月毎に配当手続を進行してゆくうちに全額請求の債権者より先に半額請求の債権者が請求債権全額について満足を受けることになる。しかし、半額請求の債権者は追加の物上代位による債権差押は民法三七四条により制限されることになり、残り半額相当分の遅延損害金はもはや請求できないことになるのに対し、全額債権者は申立時において請求債権に掲げておけば、配当時点でいかに申立時より時間が経過しようと民法三七四条の制限は受けないことになる。このように継続性を有する債権差押においては、申立時における確定利息及び確定遅延損害金と配当の時点は時々刻々乖離してゆくのであり、民法三七四条を適用することによる当事者間の不公平は明らかである。

(被告の主張)

1  物上代位に基づく請求は、その基礎となる抵当権の上に立つものであり、抵当権に対する制約が物上代位による請求に及ぶことは当然である。

2  債権執行においても、元本債権に附帯する履行期未到来の遅延損害金を請求債権として執行を開始することができるとするのが、通説的見解である。実務上、請求債権を申立時までの確定利息、損害金に限定した取扱がなされているのは、第三債務者に債権の範囲を自ら計算させるという負担を避けるという実務上の要請によるものである。

3  原告は被告が原告の申立以前から物上代位を行使し、民法三七四条の期間を超える定期金についても配当を受けていることをもって不公平であると主張するが、被告の物上代位の基礎となっているのは極度額を九億円とする根抵当権であるから、その範囲内であれば、利息損害金の弁済を受けられるから、原告の主張は誤りである。

五  判断

1 抵当権は、目的物の交換価値を把握し、これを優先弁済に充てることのできる担保物権であり、目的物が何らかの理由でその交換価値を具体化したときは、抵当権はその具体化された交換価値(代位物)の上に効力を及ぼすものであり、また、抵当権は目的物の使用収益権を設定者にとどめる性質の担保権であるが、使用の対価を生じた場合にこれに対して抵当権を実行することができるものとしても、抵当権の右性質に反するとはいえないから、本件の場合のように目的物の賃料債権についても物上代位権を行使することができるのである。一方、民法三七四条の法意は、抵当権の目的物に後順位抵当権が設定されたり、一般債権者によって差押さえられた場合に、これらの者のために、既存の抵当権によって担保される債権額が予想外に多額となることを防止することにあり、このような物上代位制度においても後順位抵当権者や一般債権者の保護の必要性があることに変わりがないから、抵当権の物上代位の場合においても、民法三七四条の適用を否定する理由はない。

また、民法三七四条は、抵当権の被担保債権額の範囲を制限するものではなく、第三者に対する関係で抵当権の優先弁済権を制限するものと解されるところ、目的物に対する差押が競合した場合に初めて右優先弁済権が顕在化するのである。とりわけ、本件の場合のように賃料債権に対する物上代位による差押が競合する場合に、同順位抵当権者の利益も後順位抵当権者等と同様に保護する必要性がある。

2(一)  原告は、物上代位による差押には、形式及び請求権において差異があることを理由に、後順位者の予測を害することはない旨主張するが、右主張は、執行実務上の実際上の要請に基づく手続を根拠にするものにすぎず、物上代位の場合においても後順位者のみならず、同順位者の不測の損害を与えないよう保護する要請は否定できないから、原告の右主張は採用しない。

(二)  原告は、物上代位による差押に、民法三七四条を適用すると、その配当の基礎となる定期金は配当の行われた時点から遡って二年分に限られるべきであり、被告主張ではそれが申立時となるので、その根拠が不明確である旨主張するが、定期金の起算点と本条の適用の可否とは特に関連がないと考えられるので、右主張は物上代位の場合に民法三七四条の適用の根拠とはならない。

(三)  原告は、物上代位による差押の中で、保険金請求権等の場合と賃料債権の場合で効力を同一視することに疑問を呈しているが、原告が右両者についても抵当権の物上代位を認める前提で論じている以上両者を区別して、賃料債権の場合に特に民法三七四条の適用を否定する根拠になるとは解されない。

また、抵当権自体の実行に基づく不動産執行と別に賃料債権に対する物上代位が手続上認められているが、これは賃借権の負担のある目的物に対する抵当権が、賃料債権を含めた交換価値を一体として把握しているからこれに対する物上代位が認められるのであるから、両手続は本質的に異なるものとはいえない。不動産執行と物上代位の重畳的行使が認められるのは、抵当権設定後に設定された賃借権によって目的物の価額が下落することや不動産競売の期間が長期化しその間に損害金などが増大することを物上代位によって補う必要があるからであり、両手続が一体となって抵当権の把握する交換価値を維持するために機能していると考えられるから、原告の主張は理由がない。

(四)  原告は、物上代位による賃料債権に対する債権差押においては、後順位抵当権は一切配当の対象とならず、このような取扱が執行裁判所においてほぼ確定している旨主張する。しかしながら、右主張は、後順位抵当権者が配当要求の終期までに差押をしなかった場合に妥当するものであるといえても、後順位抵当権者が差押をしている場合には、右主張は理由がなく、これをもって物上代位による債権差押が抵当権の実行による不動産執行の効力と異なる理由とすることはできない。

(五)  原告は、物上代位による債権差押に民法三七四条を適用すると当事者間の公平を著しく害する結果となる旨主張する。しかしながら、本件においては、原告と被告は同順位であるが、原告は抵当権者であり被告は根抵当権者であるので、被告が原告の申立以前から賃料債権について物上代位を行使し同条の期間を超える利息・損害金について配当を受けているとしても極度額を超えて配当を受けているものではない以上、原告の右主張は失当である。

3  以上によれば、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官玉越義雄)

別紙物件目録<省略>

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